Fリーグ準会員リーグ・・・フウガすみだ対DELIZIA磐田レポート
開催日◆2012年5月5日(土)
会場◆静岡県・浜松アリーナ
試合時間◆前後半20分、ハーフタイム15分
写真・文/橋爪充
試合から10日以上経った今でも、決勝ゴールのシーンがよみがえる。右サイドで鈴木孝博からのパスを受けた門田雄輔がタテに持ち出してシュート。ゴレイロ揚石創がはじいたところを再度シュート。ボールはゴールネットに突き刺さる。大歓声に包まれる場内。タイマーは00:00を表示していた―。
DELIZIA磐田(以下、デリッツィア)にとって、この試合にはいくつかの特別な側面があった。一つは、東海リーグでは(今のところ)集めることができない、1000人規模の観客の前で試合をすること。もう一つは、幾度となく練習試合で胸を借り、選手の誰もがリスペクトの気持ちを隠さないフウガすみだ(以下、フウガ)が対戦相手であること。そして最後に、昨季キャプテンを務めた本田拓磨が退団後の初の公式戦であることだ。メンバーが奮い立つ要因はそろいすぎるぐらいそろっていた。
一方のフウガは、日程上の都合で須賀雄大監督以下、太見、金川、早川、神尾、大黒ら主力がごっそりいない。彼らは同日、佐世保市での招待試合に臨んでいた。フウガの名誉のために言っておけば、この「ダブルブッキング」は不可抗力によるもの。むしろ、こんな状況下で2チームが編成できる彼らの選手層の厚さにはうならされた。
「主力がいない」と言っても、フウガのメンバーリストには関東リーグや地域チャンピオンズリーグで実績を積んだ選手がずらりと名を連ねている。関係者によれば、今年から節ごとに登録メンバーを変える方針だそうで、チーム内競争の活性化という意味においては、むしろこの日程は歓迎すべきものかもしれない。
試合開始直後はフウガの出足の良さばかりが目立った。チームの規律に基づきながらも「個」としてのアピールをするように、最前線からの猛然とプレスにいく選手たち。前2枚がこれだけプレッシャーをかけてくることは、東海リーグではなかなかない。「練習不足もあって、立ち上がりは恥ずかしい試合だった」(デリッツィア・千葉武)。デリッツィアはずるずると最終ラインが下がり、横パスをかっさらわれてシュートまで持ち込まれるシーンが目立った。
危ないシーン続きのデリッツィアだったが、こまめに交替をしながらペースをつかみ、10分過ぎからは相手ゴール前のシーンもつくりだすように。激しくクリーンな中盤の攻防で、主導権をつかもうとする両チーム。非常に見ごたえのある展開だ。
前半終了まで残り30秒。フウガに先制ゴールが生まれる。右サイド、ゴールに対して45度の角度。キッカーの茨木司朗は左足で蹴るような助走で、デリッツィアの壁2枚を1歩内側にずらし、素早く助走をし直して右インフロントでシュートを放った。ボールは壁2枚の右ぎりぎりを抜いてゴールネットを揺らした。
試合後、本人に聞いたところ、茨木はチームでも1、2を争うほど左足が不得手だそう。最初の助走はある種の「情報戦」の幕開けだったのだ。茨木の「頭脳プレー」が光ったコク深いゴールだった。
後半もフウガが攻勢。デリッツィアのFPは前半同様鈴木、山崎淳史、千葉、門田でスタート。昨シーズンは開始2分から出場することの多かった鈴木をスタートに持ってくるところに、「本田退団以後」の苦心がうかがえる。
22分、デリッツィアが同点に追いつく。右を深くえぐった伊藤豊大の折り返しを、逆サイドから走り込んだ河合高宏が「点」で合わせた。ボールスピードと選手2人の意識が高次元でシンクロした、フットサルの魅力が詰まった一撃だった。
振り出しに戻ったゲームは以後、両チーム一進一退となる。フウガのボール回しに対して、粘り強く寄せていくデリッツィア。フウガ中村歩が決定機を2度つかむが、デリッツィアはゴレイロ皆川広紀を中心とした全員守備でゴールを割らせない。
そのまま時間は経過。フウガが押し気味のままドロー決着か…という安直な予測を打ち破ったのが、冒頭のゴールだった。
とにかく「劇的」の2文字に尽きる。スタンドの誰もが笑顔だ。筆者は静岡県内のフットサル試合で、ここまでの興奮を目撃したことはない。デリッツィアは「地元」で最高の結果を出した。
今季からキャプテンマークを巻くことになった千葉。試合後、上気した顔で質問に答えてくれた。「フウガは常に追いかける存在。いい刺激を受けながらやっている」「(Fリーグプレシーズンマッチという)環境でやれることを幸せに思う」「僕らが100%のプレーを見せることで、地域全体を盛り上げる」―。なんだか急にたくましいコメントが増えた。「地位が人をつくる」ことができるチームは強い。キャプテンシーを前面に打ち出した千葉は、明らかに違った顔を見せていた。「今季は3連覇が目標」。力強く言い切った。
惜しくも敗れたフウガのキャプテン、茨木は「2点取られたが、1点しか取れていないことの方が問題。決定力が勝敗を分けてしまった」とゲームを振り返った。ただ、選手一人一人のクオリティーの高さは存分に見せつけた。観客には、勝敗と無関係に「フウガ強し」が印象付けられたはずだ。
練られた戦術と選手同士の高度な共通理解。フェアプレー精神あふれるぶつかり合い。そして地元チームの劇的勝利。静岡県内でこのような試合が見られたことを幸せに思う。
[試合結果]
DELIZIA磐田 2-1 フウガすみだ
[得点経過]
19分 0-1 茨木司朗(フウガ)
22分 1-1 河合高宏(デリッツィア)
40分 2-1 門田雄輔(デリッツィア)