三重県対決となった第3試合に続く第4試合は、atadura(以下、アタドゥーラ)と丸岡RUCKレディース(以下、丸岡)の愛知県所属チームによる対決だ。
実はこの試合、筆者がこの日最も注目していたカードだ。さすがに1日での試合観戦が3試合を越えてくると疲れが出てくるものだが、丸岡が見せたパフォーマンスはその疲れを忘れさせ、そして期待を裏切らない、素晴らしい東海リーグデヴューだったと思う。
「おいおい、勝ったのはアタドゥーラだろ!」の声も聞こえてきそうだが・・・。
まずはこちらのリンクをご紹介させていただく。
http://www.jfa.or.jp/match/topics/2011/8.html
そして、もう一つ、ちょっと読みにくい画像で申し訳ないが、こちらの写真もご覧頂きたい。
JFAサイトへのリンクは、丸岡(ここでの正式チーム名は丸岡RUCKガールズ)が女子チームでありながら福井県予選を勝ち上がり、バーモントカップの全国大会出場を大きく取り上げた記事だ。
そして次の画像だが、同じ年度の5月(バーモントカップの約8ヶ月前のこと)に浜松アリーナで行われた全国有数の民間大会、いわゆる「COPA JAL」をフットサル情報誌の依頼で取材に訪れた際に記事として掲載させていただいたものだ。
この時の取材は、あくまでも一般女子クラスを対象にしたものだったのだが、たまたま目にした丸岡の選手たちの躍動に心が震え、誌面の担当者に懇願し小さな記事だが取り上げてもらったものだ。
実は彼女達、今季のリーグ戦開幕より一足先に東海地域で公式戦をプレーしている。
もう一つリンクをご覧いただこう。
http://www.jfa.or.jp/match/matches/2012/0109u15_futsal_w/index.html
前出のバーモントカップ出場を果たした選手主体で臨んだ「第2回全日本女子ユース(U-15)フットサル大会」で彼女達は見事に全国優勝を果たしたのだ。
その前年の「第1回大会」にも彼女達は出場、ワイルドカードながら決勝トーナメント進出を果たしている。
どちらも開催会場は岐阜市の岐阜メモリアルセンターだった。男女共に東海リーグも行われる会場だ。
「その彼女達が、今季は東海女子フットサルリーグでプレーする。」・・・その経緯についてチーム立ち上げ当初から彼女達を鍛え、まとめ続けている田中悦博監督にお話を伺ったので簡単にご紹介しておきたい。
「丸岡」の名前が示すように、もともと彼女たちのチームが立ち上がったのは 福井県坂井市丸岡町だ。同じ幼稚園、同じ小学校(高椋/タカボコ小学校)に通う子供達で、遊びの一つとしてボールを蹴り始めたことがきっかけだったそうだ。
ここからしばらくの事や各大会での活躍などについては、ご紹介したリンクなどにも紹介されているので割愛させていただく。
一昨年の第1回全日本女子ユースに出場する際に訪れた岐阜の会場で、運営に携わる東海地域の役員との交流の中で、福井県あるいは北信越地域に(より高いレベルで)フットサルチームとして活動する場が無い(※北信越地域に正式な女子リーグは現時点ではない。)ことを訴えかけた。
だからと言って、東海リーグへのいきなりの参入は当然受け入れられるものではない。
その中で愛知が「日程の消化に支障がないのであれば」との提案のもとで受け入れの可能性を示した。
「あるチームのリーグへの参入を制限する特別な規約がなく、参加資格を満たし、参加費の納付はもちろんの事であるが、試合以外の代表者会議への出席、あるいはコート設営などの運営面への参加なども滞りなく行われ、そのリーグ運営責任者が受け入れを認めた。」と言う事だと筆者は解釈している。
そして、2011年度の愛知県リーグに参加→7戦全勝で優勝→東海リーグ昇格の権利を得て現在に至る、と言うのが開幕戦を迎えるまでの経緯だ。
田中監督は愛知県そして東海地域の受け入れについて、感謝の気持ちも語ってくれた。
そして「北信越の女子リーグが正式に立ち上がれば、自分達の活動の場を移すことになるだろう。その時までに東海リーグでフットサルチームとしてのレベルを向上させたい。」と付け加えた。
一連の経緯については、色々なご意見や考え方があることと思う。このブログではこの件について、これ以上の掲載は行わないつもりだ。
さてさて、肝心の試合に話を移そう。
東海リーグ初参戦の丸岡、その初戦の相手となったのが、愛知県所属の強豪、アタドゥーラだ。
アタドゥーラは昨年、一昨年(samurai ladiesとして出場。)と2年連続で全日本女子フットサル選手権の全国大会へ東海地域の代表として勝ち上がった実力あるチームだ。
キックオフは丸岡だった。
そして、このレポートを仕上げるに当たり、当日の取材メモを見返しているのだが、丸岡の項目には「20番ファーストシュート」から始まり、20番決定機、9番セカンドポストわずかに及ばず、9番インターセプトからドリブル速攻、11番ミドルシュート、20番ミドルシュート、4番から9番へ決定的パス、9番決定機、7番決定機・・・との記述が次々と並ぶ。
一方のアタドゥーラは、「キックオフ直後、江本のシュートがブロックされる。」以降は攻撃の記述がほとんどない。前半なかばに「大野、単独ドリブルでGKと1対1に。GKナイスセーブ。」とあるくらいだ。
チャンスを活かせないまま0-0の時間を過ごした丸岡だが、丸岡の選手たちがむやみやたらのフィニッシュでゴールを奪えなかったわけではない。
昨季までの2人のゴレイラがチームを離れたアタドゥーラには、今季、新たなゴレイラが加入していた。
この試合でも先発からゴールを守っていた西山有美だ。
彼女は東海地域では有数の女子サッカーチーム、名古屋FCレディースに在籍、さらにLリーグ、INACレオネッサへの在籍経験もある。日本サッカー協会が日本代表候補となる新たな女子のゴールキーパー発掘のために展開しているスーパー少女プロジェクトにも招集経験があるのだ。
丸岡の田中監督によれば、丸岡の選手たちは、他チームとサッカーでの交流の中で、この能力の高いゴールキーパーの存在を良く知っていたそうだ。
「それだけにシュートのタイミングで緊張があったり、コースを狙いすぎたりしたのではないか。もちろん、彼女のナイスセーブもありましたが・・・。」と田中監督は試合後に分析した。
さて、前半の残りの経過であるが、大げさでなく7:3以上の比率で丸岡が押し込む中、タイマーが残り35秒で止まる。
アタドゥーラが左サイドでのコーナーキックを得た場面だった。
ここでアタドゥーラはタイムアウトを使って、このセットプレーを入念に確認しあった。
そして、1分間終了のブザーが鳴りプレー再開。キッカーは武藤梨加。打ち合わせ通りの動きの杉村みゆきにパス。これを杉村が足裏で後方に流し、ディフェンスのブロックを避ける位置へボールを動かす。そこへ走り込んだ大野里香が低く強い弾道でファーポスト側のサイドネットを揺らした。
鮮やかなセットプレーだった。
試合後、その場面を振り返って「あの時間にあの形でゴールを奪われる。フットサルだなと。あのようなフットサルらしい抜け目なさを子供達にも植え付けたい。」と丸岡の田中監督。
確かにアタドゥーラのこのゴールは、どんなに押し込まれていても、ワンプレーの知恵でゴールが奪えるフットサルの可能性を現実にしたプレーだった。
前半はこのまま終了し1-0、アタドゥーラのリードで後半へ。
前半の修正点を話し合ったであろうアタドゥーラは、後半の入りから球際の競り合いに強さを発揮する。が、これが長く続かない。開始から数分後からは前半同様、またしても取材ノートには丸岡の決定機が続けて書き込まれている。
ところが丸岡は押し込む事、ゴールを奪おうとする事だけに意識が行き過ぎたことで、2点目の失点を喫してしまう。
ゴレイラからのロングフィードに杉村が走り一気に裏を取られてしまったのだ。
杉村は追いかけてきたディフェンダーのシュートブロックより一瞬早く、スライディングしながらボールを突付くと、エリアの最先端まで出て対応しようとしたゴレイラの足元を通り抜けボールはゴールの中へ転がり込んだ。
これまた、ワンチャンスをゴールまでしっかりと結び付けた、抜け目のないゴールだった。
だがアタドゥーラはこのゴールでやや気が緩んだのか、わずか20秒後に失点してしまう。
後半最もアグレッシブにゴールを目指していた丸岡の10番菅谷麻紗衣が左サイドからシュートを放ち、東海リーグで最初のゴールを記録した。
だが記念すべき自身のそしてチームとしての東海リーグ初ゴールにも喜びはなかった。菅谷はゴールの中からボールを拾うと一目散にセンターサークルへ戻り、次の再開を催促するかのようにセンタースポットにボールを置いた。
その後も9番北川夏奈、10番菅谷が決定機を迎えるものの、ゴレイラの西山の好セーブとシュートのあせりでゴールが奪えない丸岡。
アタドゥーラは決して無理せずボールを蹴りだすディフェンス対応で、少しずつだが時計を進める。
そしてこの試合、再びアタドゥーラのゴールネットが揺れる事はなかった。
試合後、濱田真希選手に話を聞いた。
「今季は監督が代わった(岩田篤樹監督/バンフ名古屋、愛知県リーグ)ことで、ポゼッションを大事にするなど、少しチームの決め事も変化がある。まだ監督の考え方、やり方を吸収中で、今日のように前から来られて少しバタバタしてしまった。苦しい時間が長かったけど、フットサルの経験値の違いで勝てたと思う。」
続けて今季の目標を尋ねると「リーグ戦は上位3位、そして選手権での全国。」と明確に答えが返ってきた。
一方、昨年度の愛知県リーグ、第2回全日本女子ユースを全勝で制してきた丸岡にとっては、床の上の公式戦では久しぶりの黒星だったかもしれない。しかも多くの人が認める「丸岡の勝ちゲーム」だったにも係わらずだ。
田中監督はフットサルへのチャレンジを「サッカーの練習メニューとして」との考えを持っていない。
「あくまでもフットサル競技としての戦術、技術を選手たちに植え付けたい。」と、今年は上村信之介選手(関東リーグ/FUTURO所属)のクリニックを受講するなど積極的だ。
選手たちも同年代との対戦では勝てることもあり、フットサル競技の面白さを感じているようだ。ただ「選手たちは中学生としたら上手だと思いますが、この年代からでも制限のないカテゴリーで活躍できる選手を育てたい。」と、あくまでも上を見据え、さらに「(東海リーグは)そのための学びの場だと考えています。」と話す。
さらに今年の目標を尋ねると、「全日本女子ユースの連覇」を真っ先にあげた。その一方で、U-15年代まで(いわゆる3種と4種)のフットサルで、GKからのボールのハーフライン越えに関する特別ルールなどが採用されている事へ異論を唱える事もはばからない。
東海リーグを戦うためには不要のルールであるその制限をどう捉え、どう選手に伝え、どう指導していくか、試合のある場所ならどこへでも出掛けて行く熱血監督の手腕に注目したい。
※公式記録は以下のページよりご覧いただけます。
■2012東海女子 日程/結果