「勝てた試合だった」
この試合からキャプテンを任された中島涼太は試合後、そう言って唇をかんだ。
3対4、アグレミーナ3連敗。前半は2対0で折り返した。勝利への道筋は見えかけていた。だが、残念ながら終着点へたどり着くことはできなかった。
「現実路線に戻り、まずは守備から」(前田監督)というチームコンセプトのもと、特にゴール前に人数をかけて守った前半だった。サイドでの寄せの素早さ、シュートに対しての体の張り方には見るべきものがあった。ベルマーレのボラが「ファルカンフェイント」で鋭く左右にボールを動かしても、萩原洪拓、蓮池紳吾らが粘り強く食いついていた。
10分、左キックインから剣持貴充が左足でゴール。16分には自陣からカウンターで持ち込んだ田中充彦が、相手ゴレイロとの1対1を見事に制して2点目を奪った。剣持のシュートの強さ。田中の「自分の距離」の作り方の上手さ。持ち味がよく出た2ゴールだった。
アグレミーナの前半のシュートは3本。このうち2本がネットを揺らしたのだから、効率が良い。ハーフタイムのプレスルームでは、「3対0になったらいよいよアグレミーナ勝利が現実味を帯びる」という声が聞かれた。ペスカドーラ戦で4対2から追いつかれたことを皆、承知している。
後半、先に得点を奪ったのはベルマーレだった。21分、前半剣持がシュートを放ったあたりから、ボラが左足でシュート。これがシュートコースに入った田中の体に当たってふわりと浮きあがり、ゴレイロ山本浩正の上を抜いてゴールイン。献身的にディフェンスに行っていただけに、アンラッキーな1点だった。だが、フットサルという競技はえてして、こういう「理不尽なゴール」が流れを変えるのだ。
ベルマーレは前半よりプレスラインを下げており、アグレミーナがボールを回す時間が増える。足元、足元でつなぐアグレミーナ。ベルマーレがボールカットからカウンター、アグレミーナのカウンター返し。
29分、ベルマーレの小野大輔が自陣左サイドでボールを持つ。アグレミーナの選手は誰もチェックに行かない。ほんのちょっとした時間。だが、この元日本代表ピヴォはこういう空白の時間を決して無駄にしない。右サイドを脱兎のごとく駆け上がった鍛代元気に向けて、糸を引くようなシュートパス。ドンピシャのスライディングシュート。試合は振り出しに戻った。
逆転ゴールはその50秒後。今度は左キックインから、同じように右ファーに突っ込んだ鍛代がプッシュした。2枚の壁の間が空く。1点目のゴールスコアラーに付ききれない。アグレミーナのディフェンスにほころびが見えたベルマーレの3点目だった。
アグレミーナは、ニージャーリが前線でボール保持する。コンディションは悪そうで、運動量は多くない。振り向いてのシュートも見せない。だが、ゴールを背にする形でとにもかくにもキープはしてくれる。必然的にボールが集まる。
アグレミーナは残り7分あたりから、ハーフラインを越えてプレッシャーをかけるようになった。これはベルマーレを慌てさせる効果を生んだ。37分、ベルマーレ鍛代にこの日3点目を決められ、2対4。だがリスクを負って前がかりの陣形を敷いている以上、仕方がない。直後にニージャーリがこの日初めて見せた反転シュートを突き刺し、チームを鼓舞した。
シュートシーンが続くアグレーミーナ。「パワープレーを使わなくてもひっくり返せる確証があった」(前田監督)という戦況が続く。残り17秒で第2PK奪取。だが関係者、ファンの期待を背負った剣持の一撃はゴレイロにストップされてしまった。ほどなく試合終了のホイッスルが鳴った。
「試合を重ねるごとに少しずつ強くなっていると思う」。前田監督はいつものように、前向きなコメントに終始した。続いて外国人監督招へいについて、初めて記者会見で口にした。「良い形で次の監督にチームを手渡したい」
リーグ戦は1週お休み。代わりにオーシャンアリーナ杯が開催される。23日に組まれた1回戦の相手はFリーグ準会員のフウガすみだだ。クラブ発足後、初の公式戦勝利を飾るか。それとも「格下」(あえてこの言葉を使う)相手に1敗地にまみれるのか。ある意味、リーグ戦以上に重要な意味を持つ1戦である。
●湘南ベルマーレ 4-3 アグレミーナ浜松
10分 剣持貴充(アグレミーナ) 0-1
16分 田中充彦(アグレミーナ) 0-2
22分 ボラ(ベルマーレ) 1-2
29分 鍛代元気(ベルマーレ) 2-2
29分 鍛代元気(ベルマーレ) 3-2
37分 鍛代元気(ベルマーレ) 4-2
37分 ニージャーリ(アグレミーナ) 4-3
写真・レポート:橋爪充